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第21話  

篠田初が病院からリバービューの広い豪華なマンションに戻ると、すぐにパソコンを取り出した。

 彼女が手早くキーボードを打つと、この数日間で松山グループを攻撃していたウイルスプログラムが自動的に停止し、松山グループの顧客システムは正常な状態に戻った。

 ネット上で拡散していたネガティブな議論も迅速に抑えられ、揺れ動いていた松山グループの株価も徐々に安定した。

 「姉御、一体どういうことですか。面白い展開が始まったばかりなのに、なんで急に中止しちゃったんですか」

 白川景雄の電話がすぐにかかってきた。彼の声は非常に興奮している。「松山グループをターゲットにするつもりじゃなかったんですか。まさか、松山昌平に未練があるんじゃないでしょうね?気が弱くなったんですか」

 ここ数日、松山グループの顧客システムがウイルスに攻撃され、顧客情報が次々と漏洩する事態に見舞われた。

 いくつかの取引先が怒って松山グループとの契約を解除し、新しい会社と契約した。

 この新会社は表向きは白川景雄が運営しているが、実際は篠田初が全てを操っており、今ではかなりの規模に成長していた。

 この計画が中途半端に終わることになり、白川景雄は明らかに不満だった。彼は篠田初様が松山昌平を思いやって、心が揺らいだのではないかと疑っていた。

 篠田初は持っているコーヒーカップを揺らしながら、窓の外の川景色を見つめ、淡々と答えた。「望んでいる効果は既に達成されたので、これ以上続ける必要はない」

 「気が弱くなったくせに、強がらなくていいんですよ!」

 白川景雄はため息をつき、心配そうに言った。「四年間も真剣に愛していた男ですから、簡単に忘れることができないのも当然です」

 「......」

 篠田初は黙っていた。

 彼女は決して冷血な人間ではない。松山昌平が彼女を守るために瓶で殴られたことで、確かに心が揺らいだ。

 「気が弱くなってもいいですが、過去の痛みを絶対忘れてはいけませんよ。弟の言葉を忘れないでください。男は皆同じです。あなたが彼に優しくすればするほど、彼はあなたを傷つけるんです」

 「今日彼を見逃してやったが、将来......彼が初さんを見逃すとは限りませんぞ」

 白川景雄の言葉は冷静で理性的で、少し躊躇した後に続けた。「聞いたところによると、あの男は二百億円の懸賞金をかけて、あなたを探し出そうとしているらしいですよ。既に多くの業界の専門家が動いていて、引退していた『風間』までも参戦するつもりのようです。もしあなたの『火舞』の正体がバレたら、松山昌平の執念深い性格を考えると、彼は一体どんな仕打ちをするでしょうね?」

 「そうか、風間までこの騒動に加わるんだね」

 篠田初は美しい顔立ちは、慌てること少しもなかった

 コーヒーを一口すすってから、微笑んで言った。「では、楽しみにしましょう」

 白川景雄との通話を終えた後、篠田初は自分のお腹を軽く撫でながら、静かに言った。「心配しないで、宝物の二人。ママはあなたたちがこの世に生まれてくる前に、しっかりとあなたたちを育つお金を稼いでおくからね」

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 あの日以来、篠田初は松山昌平から返送される離婚協議書を待っていた。

 なぜなら、彼が早くサインをしてくれるほど、彼女は早く繫昌法律事務所を引き継ぐことができ、彼女の計画も次々と進めることができるからだった。

 しかし、半週が過ぎても、配達員からの電話は一切なかった。

 同じ都市内の配送なら、その日のうちに届くはずだ。

 つまり、松山昌平は彼女が送った離婚協議書を真剣に取り扱っていない可能性が高く、もしかすると、もうすでにゴミ箱に捨てられているかもしれない。

 時間は待ってくれなかった。お腹が日に日に大きくなる中で、篠田初はこれ以上待っているわけにはいかないと思った。

 彼女はタクシーを頼み、松山グループの本社へと向かった。

 「奥様、お疲れ様です!」社員たちは、彼女と松山昌平がもうすぐ離婚することを知らないので、相変わらず親切に挨拶してきた。

 「お疲れ様」篠田初は少々気まずい笑顔を浮かべながら、恐縮して答えた。

 考えてみれば、彼女は本社に何度も足を運んでいた。

 以前は、松山昌平を愛していたので、スープを煮たり、ジュースを絞ったり、手挽きのコーヒーを持ってきたりしていた。

 ただし、それはこっそりと持って行ったため、松山昌平には知られていなかった。社員たちの口を封じるために、彼に届けると同時に社員にも渡していたので、みんなが彼女のことが大好きだった。

 篠田初は何の苦もなく松山昌平のオフィスに辿り着いた。

 「奥様、どうして急にこちらへ?」

 秘書は篠田初を見ると、明らかに不自然な表情になった。

 秘書は以前、この上品でおしとやかな奥様が、まるで鶴女房のように、届け物を受付に置いてさっと帰る姿を覚えていたので、今日は一体何事かと思っていた。

 「松山昌平に会いに来た。中にいるか?」篠田初はオフィスの扉を覗き込んだ。

 秘書の表情はさらに困惑し、しどろもどろに答えた。「はい、中にいらっしゃいますが......少し不都合な状況かもしれません」

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